テイラースウィフト最新アルバム「Lover」がなんか違う。

10代でデビューして2010年代は世界中のポップシーンを征服し、数々のイケメンセレブとロマンスを繰り広げてきたテイラースウィフトの最新アルバム「Lover」を聞いた。。。んーなんか違くないか。

2006年に1stアルバム「Taylor Swift」をリリースしてから今作で7作目となるスタジオアルバム「Lover」

日本でも2008年にリリースされた「Fearless」は耳の早い洋楽ファンには知れ渡っていたし2009年に人気番組「テラスハウス」の主題歌に起用された「We Are Never Getting Back Together」が収録されている「Red」でより多くのファンに知られるようになった。

Taylor Swift "We Are Never Getting Back Together"

日本での成功理由の一つとして、カントリーというジャンルの枠に囚われない柔軟な音楽性と大衆性を持った歌手であるという事が言える。

様々な文化の欧米化が進んだ日本ではアメリカのティーンカルチャーにあるようなカントリーミュージックというのは割と根付いていない。そういう中でカントリー歌手であるテイラースウィフトはアルバム「Red」で新たなカントリーポップを提示してきた。

平たく言えば四つ打ちにシンセサウンド多様で馴染みやすくして、そこに可愛らしい見た目も合間ってとりあえず聞いとけばお洒落っしょ!みたいな万人にわかりやすい歌詞と音楽な訳だ。

逆に言えば四つ打ちやシンセサウンドを多用する彼女の音楽をカントリーミュージックだとか、カントリー歌手だとは言えないのかもしれないし、ここ最近はそういう認識なのかも怪しい。

それは前作「reputation」を聴けばわかるだろう。この作品はこれまで積み重ねてきたテイラースウィフトの音楽全てを覆す作品になった。

Taylor Swift "Look What You Made Me Do"

アルバム「reputation」がリリースされる間際テイラースウィフトはInstagramの写真などのデータを全て消し去った。

そしてこのアルバムの中で「過去のテイラーは死んだ」と歌っている。

おそらくそういう事なんだろう。”過去の自分との決別”がアルバム全体のテーマになっている。

攻撃的で野心的。これまでのイメージを脱ぎ去って、一気にポップ路線に振り切った中毒性のあるシンセサウンドは時間差をもってジワリジワリと浸透していったようなアルバムだった。

一応比較のためにテイラースウィフト初期の作品も貼っておく。

Taylor Swift "You Belong With Me"

落ち着く。むちゃ落ち着く。こんなに落ち着くかね。

今までの優等生キャラであった自分との決別。他アーティストとの確執(これはこれだけで記事が書けるくらい長いので割愛)様々なメッセージが込められた「reputation」というアルバムは海外の評価を見ても賛否両論であった。

では今作「Lover」は?

オープニングを飾る「I Forgot That You Existe」でいっきにドリーミーでポップな世界に引き込まれる。前作で過去の自分と決別し攻撃的なエレクトロ路線を見せたテイラースウィフトに対して抱いていた期待や予想とは大きく異なったサウンドにいい意味で裏切られたオープニング曲だ。

「Soon You’ll Get Better」ではディクシー・チックスをゲストに原点回帰とも思える見事なカントリーバラードでテイラースウィフトの素の才能の奥深さを感じる事ができる。

全体的に見ればアルバム『Red』や『1989』に後戻りしながらも、より洗練されていて何より彼女自身「私生活が満たされているんだろうな」と思えるような最高傑作とも思えるアルバム。

では何が「なんか違う」のか?

ストリーミングサービスが開始されて以降、2010年代に入ってから音楽を聴くリスニング環境という物は大きく変わったように思う。スピーカーを通して聴く事が少なくなり、手のひらの上でプレイリストが目まぐるしく新しい音楽に更新されていく。

こういったリスニング環境下で何が起きたかというと、ミッドレンジより上の音が歪んでいたり高い音が強調されていると音量を下げられてしまったり飛ばされてしまったりする訳だ。これは皆さんも経験あるはず。

音楽シーン全体を見ても作り手側は低音を意識したサウンドに仕上げているように思う。もちろんシーンの中心にいるHIPHOPなどの影響によるトレンドでもあると思うが、アルバムタイトル曲「Lover」もこれに沿った形をとったのだろう。

カントリーミュージックの持つアコースティックギターやバンジョーの煌びやかで幸福感を孕んだ音は抑えられ耳馴染みの良いピアノに輪郭が浮き出たベース、エコーの効いたドラムに筆者としては多少の違和感を感じていたのだが、固定観念を捨てて言わせてもらえばリバーブの効いたボーカルも相まってこれらの音がどんな環境下で聴いても見事な音の距離感を作り上げている。

きっと筆者の持つ「なんか違う。」という感覚は、この「Lover」というアルバムがテイラースウィフトの作品の中で最も洗練され最も自然体でいて、何よりもカントリーミュージックの持ついなたさを感じないからだろう。

それ程までにこのアルバム「Lover」にはテイラースウィフトの底力と、ソングライターとして他の女性歌手との格の違いをまざまざと見せつけられた今年を代表するポップアルバムになるだろう。

Taylor Swift "Lover"

 

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