一音鳴らした瞬間は格好いい。それなのに、自分の曲に重ねると急に居場所がなくなる。
microKORGで音を探していると、そんな場面に出会うかもしれない。ベースは十分に太い。パッドも美しい。でも歌が入ると邪魔になる。ドラムと合わせると、さっきまでの気持ちよさが消えてしまう。
そこで別のプリセットへ進む前に、一つだけ試したい。いまの音を、曲に必要な長さと明るさへ近づけることだ。
ゼロから組み立てなくても、音作りは始められる。むしろ「この音は好きだけれど、ここだけ直したい」という感覚は、編集する理由として十分に具体的だ。
今回は初代microKORGを使い、プリセットの明るさ、立ち上がり、余韻を変える考え方を紹介する。microKORG 2やXL/XL+とは操作が異なる。初代の魅力や位置づけは、シリーズ第1回から読める。
最初に音色名ではなく、曲の中の仕事を決める
「良いベースを作る」では、どこまで触れば終わりなのかが見えにくい。
たとえば「キックの間を短い音で埋めるベース」なら、確認する場所が絞れる。音を離したあとに低音が残りすぎていないか。次のキックに重なっていないか。明るい成分が歌の言葉を覆っていないか。
パッドなら「歌の後ろでコードを支える」。リードなら「歌が休む二小節だけ前へ出る」。ここまで決めると、迫力を足すべき場面と、引くべき場面が分かれてくる。
プリセットのジャンル名に従う必要はない。その曲で何をしてほしいかを先に決めてから、近い性格の音を一つ選ぼう。最初はボコーダーや複雑なアルペジオを避け、変化を聞き分けやすい音から始めるとよい。
編集前に、元の音へ帰れる道を残す
まず出発点のプログラム番号をメモする。中古の本体などでは登録音が書き換えられている可能性があるため、ここでは特定の番号を指定しない。
すでに未保存の編集がある場合は、プログラムを切り替える前に、それを残すか決めておこう。今回の練習ではWRITEを押さず、保存先も変更しない。工場出荷状態への復元や初期化も不要だ。
ノブの写真だけでは、内部の値を丸ごと記録できない点にも注意したい。物理的な位置と、呼び出した音の設定値は一致するとは限らない。
接続を変える場合は、本体と接続先の電源を切り、音量を下げてから行う。編集によって音量や高域の強さが変わるので、試すときも小さめの音量から始めよう。
二小節を変えずに聴くと、音色の問題が見えてくる
音を比較するときは、同じ二小節を、なるべく同じ強さと長さで弾く。曲があれば、その一部分を繰り返しながら合わせる。
設定を変えるたびに違うフレーズを弾くと、音色が良くなったのか、弾いたフレーズが良かったのかが混ざってしまう。まずは演奏側の条件をそろえる。
一つ変えたら、microKORGだけで聴き、そのあと曲全体で聴く。音量差が大きい場合も、比較しやすい聴感上の音量へそろえる。大きくなったことを、そのまま良くなったことにしないためだ。
以降の操作は、決まった数値を再現するレシピではない。出発点の音も曲も違うので、変化の方向を聴きながら探してほしい。
歌を邪魔する音は、まず明るさを少し引いてみる
伴奏に置いたシンセが目立ちすぎる。音量を下げると存在感までなくなる。そんなときに試したいのがフィルターだ。
初代では、EDIT SELECT 1をFILTERに合わせる。CUTOFFはノブ2。TYPEがローパス型なら、CUTOFFを下げる方向で高い周波数成分が減っていく。BPFやHPFでは変化が異なるので、まずフィルターの種類を確認しよう。KORG公式マニュアル:FILTER、冊子24ページ
狙うのは、全部をこもらせることではない。歌の後ろに置いたとき、輪郭がぶつからなくなる場所を探すことだ。少し動かして歌と聴き直し、足りなければもう少し動かす。
閉じすぎると、音程の動きが分かりにくくなったり、曲に必要な存在感まで消えたりする。そこで少し戻す。その往復が調整になる。
ただし、フィルターを動かせば歌と必ず分離できるわけではない。同じ高さで似たフレーズを重ねているなら、音域や音数を変えた方が自然な場合もある。音色だけに解決を押しつけないようにしたい。
パッドを後ろへ置くなら、音の入り口を変える
コードを支えたいのに、鍵盤を押すたびにシンセが前へ飛び出す。そんなときは、明るさの次に立ち上がりを聴いてみよう。
EDIT SELECT 1のAMP EGを選び、ATTACKをノブ1で調整する。ATTACKは、鍵盤を押してから音量が立ち上がる時間を扱う。KORG公式マニュアル:AMP EG、冊子28ページ
少し長くすると、音量がゆっくり上がる方向へ変わる。コードの頭を強く主張する音から、歌の後ろへ広がる音へ近づけられるかを聴こう。
ただし、長くすれば上品になるとは限らない。短いコードを刻む曲では、十分に立ち上がる前に次の音へ移り、弱々しく聞こえることもある。演奏する長さとセットで考える必要がある。
ここで変えているのは音量の立ち上がりだ。明るさの時間変化など、別の設定が作っている印象まで一つのノブで全部直せるわけではない。まずAMP EGだけを変え、何が残るかを確認する。
ベースを締めたいときは、鍵盤を離したあとを聴く
低音の太さを足す前に、次の音が来る直前を聴いてみる。前の音が残りすぎて、フレーズの切れ目を埋めていることはないだろうか。
AMP EGのRELEASEはノブ4。鍵盤を離してから音量がゼロになるまでの時間を扱う。短くする方向へ少し動かし、音と音の間に隙間が生まれるかを確かめる。
短いベースなら、音を離した瞬間の切れ方がリズムの一部になる。一方、滑らかにつなぎたいパッドまで同じように短くすると、コードの継ぎ目が目立つことがある。「余韻は短いほど良い」という話ではない。
リードでは、フレーズの最後だけ余韻がほしいこともある。まず鍵盤を離すタイミングで調整し、それでも長すぎるかを聴く。演奏と設定の両方で、音の終わりを作っていこう。
なお、RELEASEを短くしても繰り返す音が残るなら、ディレイの影響も確認したい。音量の包絡と、エフェクトが作る後ろの音は分けて聴く。DAWで加えるディレイについては、Tape Delayの解説も参考になる。
ノブが反応しないとき、勢いで回さない
初代では、ノブの物理的な位置と現在のパラメーター値がずれていると、現在値に届くまで変更されない。値を拾うと表示の点滅が止まる。動かないからと複数のノブを回さず、選んだ項目を確認して一つずつゆっくり動かそう。
ORIGINAL VALUEの点灯は、いま扱っているパラメーターが保存値と一致した目印だ。ノブが現在値を拾うこととは意味が違う。また、これが点いても、ほかに変更した項目まで元へ戻るわけではない。Performance EditではORIGINAL VALUEは機能しない。公式マニュアル:編集操作、冊子12〜13ページ
保存するのは、違いを一言で説明できてから
「歌の後ろに置くため、高域を少し抑えた」「次のキックに余韻が重ならないよう、リリースを短くした」。そんな一文が書けたら、残す理由のある音になっている。
出発点の番号、変えた項目、変更した値、曲での役割をメモしておこう。ノブの位置だけより、次に再現する手がかりになる。
保存は選んだ場所の音を上書きする操作だ。大切な音が入った場所を避け、上書きしてよい保存先を確認してから、公式マニュアルの保存手順(冊子58ページ)に沿って進める。書き込み保護を変更する必要がある場合も、対象の説明を確認してから行おう。
保存しない場合は、未保存の変更を捨ててよいことを確認し、別のプログラムに切り替えてから元の番号へ戻せば、保存されている音を呼び直せる。電源を切っても未保存の編集は失われる。
最初の音作りは、一つのプリセットに三つも四つも手を加えなくていい。曲の中で気になった一点を直し、もう一度鳴らす。それでフレーズが生きるなら、その小さな変更には意味がある。
プリセットを巡る時間から、曲を進める時間へ。その切り替えは、ノブを一つ動かすところから始められる。
※初代microKORGの公式説明書に基づく編集ガイドです。実機での比較試聴結果や、特定の曲に共通する推奨設定値を示すものではありません。