KID FRESINOとニューヨーク。曲やプロフィールからそのつながりを知って、「なぜ渡米したのだろう」と気になった人もいるはずだ。
本人が当時のインタビューで語っていたのは、ミキシングを学ぶことや、現地のスタジオで音楽制作に関わってみたいという思いだった。ラッパーとして活動を広げる計画だけで説明してしまうと、出発時の考えを取りこぼしてしまう。HOUYHNHNMの本人インタビュー
この記事では2014年の渡米から2018年の作品までを中心に、その経緯を振り返る。後半には、背景を知ってから聴いてみたい3曲も挙げた。現在の居住地についての記事ではないので、その点は最初に区別しておきたい。
ニューヨークに渡ったのは2014年9月
2015年10月公開のMasteredのインタビューでは、前年9月に渡米したことが紹介されている。本人は、ニューヨークを選ぶ前にロサンゼルスにも滞在したが、自分にはしっくりこなかったと説明。当時のニューヨークでは、学校に通いながら部屋で音楽を作る時間が多かったという。Mastered「Vol.52 KID FRESINO」
ここで大切なのは、ニューヨークという街の名前だけで動機を決めないことだ。「ヒップホップの街だから憧れて渡った」という説明は分かりやすい。けれど、本人の話には場所との相性や、制作に集中できる日常への関心もある。
さらにHOUYHNHNMのインタビューでは、当初はラップを続けるつもりではなく、ミキシングを勉強し、現地のポップミュージックが作られるスタジオに入ってみたかったと話している。日本にいたままでは先が見えにくいという感覚も、環境を変えるきっかけとして語られていた。HOUYHNHNMの本人インタビュー
渡米をひとつの成功物語にまとめるより、音楽との関わり方そのものを探していた時期として読むほうが、当時の言葉に近いだろう。
NYで作った『Conq.u.er』と、C.O.S.A.との『Somewhere』
その時期を作品からたどるなら、『Conq.u.er』が手がかりになる。公式ディスコグラフィーでは、全曲ニューヨークで制作されたアルバムとして紹介されている。KID FRESINO自身がビートを手がけた曲に加え、jjj、nosh、B-Money、Gradis Niceらの名前もクレジットに並ぶ。KID FRESINO公式ディスコグラフィー
そして2016年7月20日には、C.O.S.A.との共作『Somewhere』を発表。「LOVE」は、その2曲目に収録されたjjjプロデュースの楽曲だ。SUMMIT『Somewhere』公式情報
まずは「LOVE」から聴いてみてほしい。歌詞だけで渡米の事情を読み解こうとするより、C.O.S.A.とKID FRESINOの声や言葉の置き方を比べてみる。同じトラックの上で、二人の違いがどう出るか。その聴き方なら、細かな経歴を知らなくても曲に入っていける。
曲の公式映像は、上のSUMMITのページから確認できる。
帰国後につながる、音楽の作り方の変化
2018年のインタビューでは2017年の帰国が扱われ、本人は帰国を機にラップを仕事にしようと考えたと振り返っている。また、暮らすうちに日本への否定的な見方も変わり、場所だけでなく自分の捉え方の問題だと思うようになったという。CINRAの本人インタビュー
制作面で注目したいのが『Salve』だ。公式説明では、初めて生楽器・バンド編成での楽曲制作に取り組んだEPとされている。三浦淳悟、佐藤優介、柿沼和成、斎藤拓郎らが参加し、MOCKYがプロデュースとアレンジを手がけた曲も収められた。KID FRESINO公式ディスコグラフィー
2018年の『ài qíng』では、バンド編成の曲とビートを軸にした曲が共存する。本人は、バンドの音の強弱や空間に合わせてラップするため、試行錯誤が必要だったと説明している。また、『Somewhere』を機に人と音楽を作る楽しさを感じたことも話していた。Mastered『ài qíng』インタビュー
ここまでたどると、聴きどころが少し具体的になる。ラップだけを追うのでも、バックの演奏だけを聴くのでもなく、声と楽器がどう関わっているかに耳を向けてみたい。
初めて聴くなら、この3曲から
これは人気順のランキングではなく、この記事で扱った変化を追うための3曲だ。聴き比べるときは、まず声、次にリズム、最後に曲全体と、注目する場所を変えてみると入りやすい。
1. C.O.S.A. × KID FRESINO「LOVE」
『Somewhere』収録、プロデュースはjjj。最初は二人の声を聴き分けて、次は言葉がビートに重なるタイミングを追ってみよう。気になったら同じアルバムの「Swing at somewhere feat. コトリンゴ」へ進める。収録情報・公式映像:SUMMIT
2. KID FRESINO「Salve feat. JJJ」
EP『Salve』の1曲目。「LOVE」と続けて聴き、声の後ろで動く楽器とラップの関係を比べてみたい。バンド編成で作るKID FRESINOの音楽に触れる入口になる。収録情報:公式ディスコグラフィー
3. KID FRESINO「Coincidence」
『ài qíng』の冒頭曲。制作インタビューでは、変拍子を含む構成やスティールパンの使い方が説明されている。拍子を数えられなくても大丈夫。リズムが変わったと感じるところで、ラップや楽器がどう続くかを追ってみよう。制作背景・公式映像:Mastered
理由を知ったら、作品に戻ってみる
KID FRESINOの渡米には、学びたいことや環境を変えたい思いがあった。その後も制作は続き、共作やバンド編成へと表現の方法が広がっていった。
ニューヨークという経歴を知ることは、その音楽を聴くためのひとつの手がかりになる。ただ、曲を楽しむためにすべての背景を理解する必要はない。「LOVE」から始めて、『Conq.u.er』『Salve』『ài qíng』を行き来してみる。自分が惹かれる声やリズムが見つかったところから、もう少し先へ進んでみてほしい。
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