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Makaya McCraven『In These Times』:演奏のあとにも、音楽は作られる

ジャズの録音は、演奏家が集まって一斉に鳴らした音を、そのまま保存したもの。そんなイメージがあるなら、Makaya McCravenの『In These Times』は、録音後の仕事にも目を向ける入口になる。

演奏と編集を、どちらが本物かという対立で考える必要はない。演奏する時間があり、その録音を聴き返して選ぶ時間がある。本作の制作背景をたどると、一枚のアルバムに流れる時間が、録音の現場だけでは完結しないことが分かる。

本稿は公式の制作資料とクレジットを基にした作品ガイドだ。実際の試聴によって編集箇所を特定した記事ではない。以下の観察や制作練習は、資料から着想した編集上の提案として読んでほしい。

長い制作期間と、録音期間を区別する

『In These Times』は2022年9月23日、International Anthem/Nonesuch/XL Recordingsから発売された11曲の作品。公式紹介は、七年以上にわたって進めた構想と制作、複数のスタジオとライブ会場の録音、自宅でのポストプロダクションを説明している。Nonesuch公式作品ページ

同ページの詳細クレジットでは録音期間を2016年11月から2022年3月と記している。「七年以上かけて作った」と「七年以上ずっと録音していた」は同じ意味ではない。曲を考える、編成を試す、別の仕事を挟んで再検討する。制作期間という言葉には、録音ボタンが押されていない時間も含まれ得る。

この違いを知ると、アルバムを一晩の出来事の記録としてだけ聴く必要がなくなる。異なる時点の判断が、いま再生している曲順にまとめられている。ここでの関心は、完成までの苦労を美談にすることより、何を一つの作品として残すかという判断に向けたい。

クレジットには、演奏と制作の両方がある

レーベルのBandcampではMcCravenにドラムだけでなくサンプラーなどの担当が記され、プロデュースも本人名義になっている。参加者にはギターのJeff Parker、ハープのBrandee Younger、ベースのJunius Paulらがいる。International Anthem公式Bandcamp

これを「生楽器の曲に後から機械を足した」と単純化するのは避けたい。担当楽器の一覧だけでは、どの順序で何を組み立てたかまでは決まらないからだ。確かに言えるのは、演奏家としての仕事と、録音を扱う制作者としての仕事が、同じ人物のクレジットに並んでいることだ。

完成した音を聴くときも、演奏技術だけを褒めるか、編集技術だけに注目するか、二者択一にしなくていい。誰かの演奏があってこそ選べる瞬間が生まれ、その選び方によって別の聴かれ方が生まれる。この両方を考えるのが、本稿の読み方の提案になる。

編集箇所を当てるゲームにはしない

「これは切り貼りだろうか」と考えながら聴くのは面白い。ただし、同じように聞こえるフレーズが続いても、それだけでコピーされた録音とは断定できない。演奏者が似た動きを繰り返している可能性もある。逆に、つながりが自然だから無編集だとも言い切れない。

初めて聴くなら、仕組みを当てるより「いつ自分の注意が切り替わったか」を記録してみよう。ある楽器を追っていたのに別の音が気になった場所、続きを待ちたくなった場所、曲が終わったと感じた場所。楽器名が分からなければ、「高い音」「短く鳴る音」と自分用に書いて構わない。

次の再生では、その場所に至る少し前から聴く。変化の瞬間だけを切り取るより、その前に何が続いていたかを含めると、自分がなぜ反応したかを考えやすい。これは制作手順の再現ではなく、完成した構成に向ける聴き手の観察だ。

作る側なら、一つの録音から二つの構成を

DTMをしている人は、本作そのものを素材にせず、自分で演奏・録音した短いフレーズで練習できる。ピアノでも机を叩く音でもいい。まず、音を加工する前の録音を保存しておく。

一つ目のバージョンは、録音した順序のまま並べる。二つ目では、冒頭を短くする、気に入った部分を繰り返す、最後の区間を先に置くなど、構成だけを変える。両方の再生音量をなるべく近づけ、音色の派手さではなく、始まり方と終わり方を比べてみる。

そのとき問いたいのは、「編集すると上手に聞こえるか」だけではない。演奏したときには意識しなかった区切りが生まれたか。繰り返したことで、何が主役に感じられるようになったか。録音のどこを選ぶかも、音楽の形を決める行為だと実感しやすくなる。

これはMcCraven本人の制作工程を再現するレシピではない。使用機材や編集単位を想像で補うものでもない。演奏後の選択を自分の手で経験するための、小さな独立した練習だ。

共同制作の名前を残す

本作のクレジットには、「Lullaby」がPéter DabasiとAgnes Zsigmondiによる元の歌を基にしていること、表題曲にStuds Terkel Radio Archiveの音声を許諾のうえで使用していることも記されている。公式クレジット

録音を材料として扱うという話は、材料の出どころを忘れていいという意味ではない。作曲、演奏、録音、編集、それぞれの貢献を名前に結びつけるクレジットも作品の一部として読める。ここから得られるのは、サンプリングの手法だけでなく、何を参照したのかを明らかにする姿勢への関心だ。

『In These Times』を聴くときは、一度で全員の楽器を聞き分けなくていい。一曲の中で自分が気になった場所を一つ持ち帰り、クレジットへ戻る。その往復によって、ジャズを演奏の記録として楽しみながら、録音から作品を組み立てる仕事も想像できるようになる。

公式試聴

International Anthem公式Bandcamp『In These Times』に曲一覧、公開試聴、制作情報を掲載。本文の事実は同ページとNonesuch公式ページで2026年11月2日に確認した。再生範囲はサービスの条件により変わる場合がある。

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短い録音と構成の関係は、J Dilla『Donuts』とループ構成でも考えています。

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