アルバムを開くと、「Continuum 1」から「Continuum 10」までが並んでいる。歌のタイトルから物語を想像したり、知っているシングルを探したりする聴き方とは、少し勝手が違う。Nala Sinephroの『Endlessness』では、この番号付きの並びを、聴き始めるための地図にしてみよう。
本稿は公式の作品紹介と演奏クレジットをもとに、聴くときの問いを用意するガイドだ。実聴による音色の描写や、各曲の展開を断定するレビューではない。「静かな音楽」という先入観を先に完成させず、何が続き、何が入れ替わるのかを自分で確かめるために読む記事である。
番号の並びと、一つながりの構想
『Endlessness』はWarp Recordsから2024年9月6日に発売された。公式紹介では、約45分、10曲を通してアルペジオが続く作品と説明されている。アルペジオという言葉にまだ馴染みがなければ、まずは「作品を通じて追える反復の手がかりがある」という予告として受け取ればいい。最初の再生ですべてを特定する必要はない。アーティスト公式作品ページ
公式の説明を知ると、同じものを必ず聞き取ろうとしてしまうかもしれない。けれど、初回はその答え合わせをしない方法もある。曲名表示を見ないで聴き、自分が区切りを感じた場所を覚えておく。あとでトラックの区切りと一致したかを確かめれば、番号とは別の、自分の聴いた流れが見えてくる。
途中で集中が切れても失敗ではない。番号を目印に戻れるため、全体が一続きという考え方と、短い単位で聴き直す方法は両立する。全曲を一息に理解しようとするより、どこへ戻るかがわかるだけでも使いやすい作品地図になる。
クレジットを「聞こえた音の正解表」にしない
演奏者の一覧は、楽器を当てるテストの解答ではない。ある楽器の名前が書かれていても、それがずっと前面に聞こえるとは限らない。加工や重なりのある音を、記事だけで一つの楽器に決めつけることも避けたい。
ただし、編成の違いは、注目する場所を選ぶ手がかりになる。公式Bandcampの曲別表記を見ると、「Continuum 1」にはNalaのシンセサイザー類、James Mollisonのサックス、Morgan Simpsonのドラムが記載されている。「Continuum 3」にはNalaのシンセサイザーとハープ、Lyle Bartonのシンセサイザー・リードが並ぶ。クレジット上の編成から、最初から全曲を「ハープだけの静かな音楽」として扱わないほうがよいことがわかる。公式の曲別クレジット
そこで、まず名前を見ずに一つの音を追い、次にクレジットを読むという順番を試したい。正体がわからない音には、「短く弾ける」「長く伸びる」「輪郭がぼやける」といった仮の名前をつける。楽器名と結びつかなければ、そのまま保留でよい。知識を増やすことと、聞こえたものにすぐラベルを貼ることは同じではない。
短い曲を抜き出すときは、前後も一緒に考える
10曲すべてに同じ時間を割く必要はない。公式曲目で「Continuum 5」は1分26秒、「Continuum 1」は7分13秒とされている。番号は等間隔の章立てではなく、長さにも幅がある。公式トラックリスト
短い時間しかない日は、「Continuum 5」を入口にしてもよい。ただし、短いからアルバム全体を代表する試聴用の要約だとは考えないこと。最初は単独で聴き、別の日には一つ前から続けて聴いてみる。長さの短さが単独での印象なのか、並びの中での役割なのかを分けて確かめられる。
この比較で書くメモは、「前の曲があるほうが好き」だけでも構わない。理由を探せそうなら、始まりが急に感じなくなったのか、前との違いが際立ったのかを言葉にする。具体的な変化が聞き取れなければ、無理に作品の統一性を証明しなくていい。次に聴くときの問いを残しておけば十分だ。
BGMにした日と、手を止めた日の差を使う
作業中に流していた音楽を、途中から真剣に聴きたくなることがある。その切り替わりを活用してみよう。気になった番号だけ控え、作業が終わったらそこに戻る。最初から45分の集中時間を確保できなくても、偶然耳に残った部分を次の入口にできる。
二回目には、何かを一つだけ追う。「一番高く感じる音」「繰り返しを作っている音」「遠くにあるように感じる音」のどれかでよい。追い始めた対象が途中でわからなくなったら、別の音へ注意が移った瞬間を思い出す。演奏者の交代や実際の音量変化を確認できなくても、自分の注意が動いたことは記録できる。
こうした聞き方をするときも、「集中力が上がる」「必ず眠れる」といった効能は前提にしない。落ち着く人もいれば、細部が気になって作業が止まる人もいるだろう。用途を決めて作品を評価する前に、自分が音へどの程度注意を向けたくなるかを知るほうが、次の選曲に役立つ。
ジャズか電子音楽かを決める前に
公式紹介は本作をジャズ、オーケストラ、電子音楽をまたぐ作品として位置づけている。その分類を入口にすることはできるが、どれか一つの聴き方に統一する必要はない。公式紹介
演奏者の関わりが気になった日はクレジットを、続いている音が気になった日は曲の境目を、聞こえ方そのものが気になった日は同じ範囲の再生を使う。番号だけのタイトルは説明が少ない分、耳を置く場所を自分で選ぶ余地も残している。
『Endlessness』を聴く最初の目標は、10曲の違いを全部説明することではない。気になった番号と、そこへ戻る理由が一つあればいい。その小さな目印から、連続した作品を自分の時間の中でたどっていこう。
資料確認日:2026年11月2日。編成は公式記載に基づく。楽器の聴感上の識別、タイムコードごとの分析、健康効果の評価は行っていない。
あわせて読みたい
ジャズの演奏者や編成を入口にするなら、Ezra Collectiveを歌とリズムから選ぶ3曲も紹介しています。